医療法人社団 煌の会 YSYC山下湘南夢クリニック

日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 不妊治療費助成金指定医療機関 藤沢駅南口徒歩4分 TEL 0466-55-5011

スタッフブログ 山下湘南夢クリニック(YSYC)は、神奈川県藤沢市にある不妊治療を専門とする医療機関です。 そこで働く私たちスタッフが、日々感じた事や不妊治療に関する事を書いています。

  • 2019.03.10

    先日2泊3日の旅程で知床半島に流氷を見にいってきました。

    YSYCには“日本の世界自然遺産を訪れる会”というのがあって二年前は鹿児島県の屋久島に渡り縄文杉に会ってきました。今回の旅はその第二弾で、知床は四季折々に素晴らしい景色に出会える場所ですが、折角行くなら流氷の季節にとこの時期を選びました。学生時代からニセコやトマムそしてフラノなど北海道の有名なスキーエリアは何度も訪れてきましたが知床とは縁がなく、ましてや流氷の時期に訪れる機会はずっと無いだろうと諦めていただけに、今回の知床流氷ツアーは期待に満ちた旅でした。

    第一陣は一行5人で、昼に羽田空港で待ち合わせ1時間半余りのフライトで道東の女満別空港に着陸しました。空港からはバスで目的地である知床半島ウトロまで2時間半の旅です。一面の雪景色と氷点下の寒さが遠くに来た旅情をかきたてました。内陸に位置する空港を出て網走湖、網走市街を越えるといよいよオホーツクの海沿いを走る道に出ます。国道と海の間の砂地には釧網本線という鉄道が走っているのですが、線路は今にも雪に埋まってしまいそうで、行き帰りともに一度も電車とすれ違うことはありませんでした。寒々とした海だけが続く荒涼とした風景ですが、過ぎ去っていく景色を見飽きることなく眺めていました。

    サイの角のようにオホーツク海に突き出した知床半島の付け根にある斜里町に入ると北国の弱い陽ざしを鈍く反射する灰色の海にジグゾーパズルのピースのようないろいろな形をした氷塊が見え始めました。徐々に数を増していく流氷は所々で入江を埋め尽し、白い回廊が遥か沖合まで続いていました。シベリア、アムール川河口周辺でできた氷が長い旅路の果てに行きつく南限が知床の流氷だそうです。天気の荒れる北からの季節風が吹けば岸に打ち寄せ、南風が吹けば岸から離れていくそうです。流氷という自然の防波堤に守られた内側の海が波ひとつなく鏡のように静かなことがとても印象的でした。

    お昼に羽田空港を出発した旅もウトロにある宿に着く頃には日も沈みかける時間になっていました。ウトロへ急ぐバスの車窓には、オホーツクの海をオレンジ色に染めながら、自らの姿を流氷の海に映し込み沈んでいく夕陽が美しく輝いていました。

    いつの頃だったか記憶は定かではないのですが、YSYCの研究スタッフと酒を飲みながら研究テーマについての話を聞いていました。世界中の誰もまだ手をつけていない難しいけれど夢とロマンに溢れた研究がうまくいったら、流氷でオンザロックを作り乾杯しようと語り合った記憶があります。その時は流氷の海の具体的なイメージはなかったのですが、こんな夕焼けの流氷の海を見ながら海岸にたたずみ、流氷のオンザロックで彼と祝杯を挙げることができたら、きっと天の雫の味に心が震えると思います。
    そんな思いとともに、バスはウトロに到着しました。



     
     
     
     
     
     
     
    夜の原生林をかんじきを履いて散策し暗闇の静寂と雪の感触を楽しみ、凍てつく寒風の吹き抜ける雪原を歩きシマフクロウやモモンガを探し、そして、ボディスーツに身を包み流氷プールに入り童心にかえり歓声を上げました。
    大自然に包まれ、新鮮で豊富な食材を堪能できた素敵な時間を過ごすことができました。

    ネイチャーツアーの終わりに、ガイドさんが優に100頭を超えるエゾシカが柵の中に入れられている場所に連れて行ってくれました。柵に近寄る私たちをシカの群れは悲しい目をして追っていました。オオカミが絶滅してシカが増えすぎた結果、餌がなくなる冬に木の皮までを剥いで食べてしまうそうです。その結果、森が枯れ世界遺産の知床の生態系(エコ)も破壊されているのだそうです。そのため、間引きのために捕獲し、肉をハンバーグなど名産品にして道の駅で販売しているとガイドさんは淡々と説明していました。どこか収容所のような異様な雰囲気の理由が納得できたように思いました。さきほどまで森の中にいるエゾシカを双眼鏡で見つけて歓声を上げていた自分たちはいったい何だったんだろうと不思議な気持ちが心の中に残りました。エコというより人間のエゴを感じさせられた寂しい光景でした。何事につけ、すべてを綺麗ごとだけでは済ますことはできないものだと改めて思わされました。

    帰路のオホーツクは明るく晴れ上がり、青い空を背景に流氷の白が眩しく輝いていました。とても短い滞在でしたが、数々の記憶に残る美しい表情を見せてくれたオホーツクの神様に心から感謝したいと思います。

    空港までのバスに揺られながら都会では得られることのない自然の恵みに別れを惜しみました。



     
     
     
     
     
    2019年3月9日 院長 山下直樹
  • 2019.01.01

    あけましておめでとうございます。



    2018年はYSYCの新たなる飛躍を目指して、診察機器の最新機種への更新、培養室の拡張工事と培養機器の最新機種への更新さらに受精卵管理システムの導入、高度生殖医療研究所の拡張と研究員増員、そして事務室の予約、精算システム導入と多岐にわたり着手した年でした。20193月までにすべてを完了する予定です。

    ソフト面では、正確さ(Accuracy)と迅速さ(Speedy)を常に念頭において仕事に従事するようこれまでスタッフに話してきたのですが、今年からこの二つに加えて、カッコよさ(Cool)を意識するように話していきたいと考えています。無駄を省き、正確で迅速な仕事を極めていくとそこには自ずと美しさや見事さが醸し出されてきます。スタッフひとりひとりに、周囲の人からあの人の仕事ぶりはかっこいいなと思わせるようなエキスパートになってほしいと考えています。

     

    開院10周年を迎えた2019年、ハード、ソフト両面を更に充実させ、無駄のない洗練された治療施設を創造し、患者さんの夢の実現に微力ながら貢献していきたいと考えています。

     

    本年もよろしくお願いします。



    追伸)昨年暮れの天皇誕生日の聡明さと慈愛に溢れた陛下のお言葉には感動しました。

       平成という時代が終わりを告げようとしているのですね。

                            

    2019(平成31)年11日 院長 山下直樹
  • 2018.11.01

    9月19日のNHKのクローズアップ現代で“精子力クライシス”というショッキングな題名の番組が放映されました。

    “日本の男性に深刻な危機が広がっている。精子の数が少ない、ほとんど動かない、DNAが傷ついていて妊娠を成功させる力がどんどん衰えている。精子力クライシスが広がっています。”
    番組の冒頭、深刻な面持ちで男性キャスターが台本を読み上げます。
    そして、まるでAIDSやエボラ出血熱など恐ろしい感染症が世界中に蔓延しはじめたような危機的な文言が続きます。

    一体、この番組は何を伝えようとしているのだろう?
    その深刻な表情につられてテレビの前に腰を下ろしました。

    しかし、唐突に話題が変わります。
    “新たな問題が浮かび上がってきました。日本の体外受精の実施件数は世界最多です。しかし、成功率は最低レベルなのです。”
    台湾を筆頭に米国、イギリス、韓国など体外受精成功率20-30%台の妊娠率の国が続き、一番下に妊娠率6%の日本が位置するグラフが大きく映し出されます。画面の片隅に小さく採卵周期当たりの妊娠率と表示されています。

    皆さんは採卵周期あたりの妊娠率という言葉を御存じでしょうか?

    欧米諸国、またはそのやり方をそのまま踏襲した国、そして日本の約70%の施設では刺激周期法と言って採卵前に排卵誘発剤を多量に注射し、一度に20個近い卵子を採取する方法を行っています。そして、その卵で受精卵を作り一旦凍結保存します。その後、卵巣が排卵誘発剤の影響から立ち直った頃、凍結した受精卵を1-2個ずつ融解して妊娠が成立するまで子宮に移植していきます。すなわち、1回の採卵で少なくても5‐6回の胚移植ができるわけです。ここで注意すべきなのは、1採卵周期で5回胚移植ができたとして、たとえ初めの4回がうまくいかなくても、最後の1回の移植で妊娠が成立すれば採卵あたりの妊娠率は100%になるわけです。しかし実際は、5回目の移植で成功したわけですから、胚移植あたりの妊娠率は20%にすぎないのです。
    一方、日本では患者さんの身体的、経済的負担をできるだけ軽減するために薬を使用しない自然周期や低刺激法を使用して採卵を試みる治療が全採卵周期の約30%を占めています。この方法では1回の採卵でとれる卵の個数はせいぜい2-3個で、1回の採卵で1-2回の胚移植しかできません。たとえば、1回の採卵で1個の卵子が採れて胚移植が1回できたとします。それでうまくいかなければ、採卵あたりの妊娠率は0%になります。
    野球に例えれば、刺激周期は1試合で5回打席に立って1本でもヒットを打てば試合当たりの打率は10割になります。一方、自然周期は代打のようなもので、1試合で1回打席に立って安打が出なければ打率0です。
    理解していただけたでしょうか。優劣を決めるときは胚移植(打席)あたりの妊娠率で比較するのが当然であって、採卵(試合)あたりで比較すると大きな誤解を招いてしまうのです。

    また、日本の生殖医療の患者さんの平均年齢は40歳に達しようとしています。フランスの平均年齢は34歳です。これは、欧米諸国では日本のように血のつながりをそれほど重要視しないため、年齢が高く体外受精の成功率が低い方たちは、養子縁組(国際縁組を含めて)や卵子バンクなどの手段を選ぶことが多いからです。

    社会的背景が違う国の医療を誤った方法で比較しても何の真実も見えてきません。ただ、誤解を招くだけです。
    にもかかわらず番組では追い打ちをかけるように産婦人科医が登場し、
    “日本の生殖医療は営利目的で、体外受精をやらなくていい人にも行っている”
    という台詞でつないでいきます。
    この番組構成は、日夜休むことなく懸命に生殖医療に携わっている医療関係者には非常に失敬な話で、恣意的な悪意さえ感じます。

    ところが、
    “この低い妊娠率が日本人男性の精子力の低下によってもたらされている可能性があるというのです。”
    と、精子力クライシスという番組タイトルに話を戻すように男性キャスターが無理やり舵を切ります。
    …というのです??ってそんなことを言ってるのは誰?
    ストレスの多い日本の社会が精子力クライシスをひき起こし、その結果体外受精の妊娠率を先進国最低にしているのなら、日本よりはるかに激しい競争社会で自殺率も高い韓国の妊娠率が日本より良好なのは何故??疑問が次々と湧いてきます。

    そんな私を置き去りにして番組は進んでいきます。

    精子力クライシスを克服するためには男性が生殖医療に積極的に参加すること。産婦人科医と泌尿器科医が協力して治療を進めていくことが必要である。として某大学の外来診療風景―小さな机を挟んで患者さん夫婦と産婦人科医そして泌尿器科医が頷き合いながら診療しているーまるで小学生の学芸会のような風景が映し出されます。

    皆さんはこれまで複数の医師に同時に診察を受けたことがあるでしょうか?
    ただでさえ高額な医療費が一体いくらになるでしょうか?
    ただでさえ長い待ち時間が二人の医師が揃うまで何時間待つことになるでしょうか?
    なにより、二人の医師がいるから良い治療法が見つかるとでもいうのでしょうか?

    1人の医師がしっかりと勉強し、男性不妊にも女性不妊にも精通すればそれで済む話だと思います。

    番組のここかしこで、不妊治療歴のある放送作家の男性が経験談をもとに不妊治療への男性の積極的な参加が必要だと何度も繰り返し呼びかけます。
    辟易して、見るのを止めようかと思った時、泌尿器科で頻繁に行われている精索静脈瘤の手術を受け、精子のDNA正常割合が20%から30%改善し、顕微授精でうまくいかなかった妊娠が成立した。と顕微授精より精索静脈瘤手術が良かったと結論づけるような紹介があります。

    顕微授精について番組では何の説明もなく悪者のような扱いを受けていますので補足しておきますと、顕微授精は精子を無作為に選択して卵子に注入しているわけではありません。
    遠心分離器で重量の軽い精子を除外し、精子頭部の形に異常がないか注意深く観察し、時には水素処置を行い精子ミトコンドリアのエネルギーの有無を確認し、培養士が選りすぐり選んだ良好な精子を卵子に注入するわけです。
    そのような高い精度と熟練を要する顕微授精と精巣を適温に保ち改善があるか様子をみる静脈瘤手術を同列で論ずることには無理があります。さらに言えば、両者は比較できない異質なものです。

    しかし番組では、驚きも極まることに精子力クライシスを克服するには、軽めの運動、体重管理、質の高い睡眠、長風呂やサウナなど精巣を温め過ぎないなど生活習慣の改善が重要ですと締めくくるのです。

    パソコンやスマホを開けば苦も無くたどり着けるような体質改善法に顕微授精が比較されるのは、顕微授精を開発し、磨き上げてきた研究者にとっては怒りや呆れを通り越して苦笑いしか出ないのではないかと思います。

    私は、生殖医療は産婦人科医でも泌尿器科医でもなく生殖医療医がみるべきだと思っています。
    妊娠はカップルで成し遂げる共同作業であって、男性不妊だの女性不妊だの分けて治療を進めるのは無意味だとも思います。なぜなら、妊娠の後には育児という妊娠よりさらに二人の協力が必須の作業が待っているのですから。

    一般に、30分にも満たない番組で視聴者が心に残せるメッセージはせいぜいひとつかふたつです。この番組のメッセージとしては

    日本の体外受精は営利目的
    体外受精の成績は先進国最低
    男性が泌尿器科を診察することが大切
    精子所見が悪ければまず生活習慣の改善
    顕微授精より精索静脈瘤手術
    精子バンクが大変なことになっている
    というところでしょうか。

    長年お子さんに恵まれずそろそろ生殖医療をしてみようと考えていたご夫婦がこの番組を見て選んだメッセージが生活習慣を改善してしばらく様子を見ようであったなら非常に罪作りな番組だと思います。
    言うまでもなく、生殖医療にとって一番大切なことは時間を無駄にしないということです。

    誤解はある日突然真実となり、多くの人を惑わせ、責任を取ることもなく、いつの間にか忘れ去られていきます。
    何事も、後悔の無いよう自分でよく考えて判断することがとても大切だと思います。

    最後に、この番組は精子バンクの破綻にまで言及していました。
    欧米では精子バンクが商業的に行われ1人のドナーから100人以上の子供が生まれているというカオスな状態。一方、日本では精子提供を受けた子供の出自を知る権利が認められたことから、ボランティアがいなくなり精子バンクが運営できなくなったという危機的な状況。
    これこそ60分番組でも扱いきれない精子バンククライシスというべき深刻な社会問題です。しかし、番組は曖昧な答えしか出さないまま消化不良で終了してしまいます。

    この番組のディレクターが、食材をてんこ盛りにしたぶっかけ丼を、よく味わうこともなく、がつがつとかきこんでいる姿が脳裏に浮かびました。

     
     
    2018年10月31日 院長 山下直樹
  • 2018.09.17

    夏休みを利用してオーストラリアのメルボルンを訪れてきました。

    今から20年以上も前のことになりますが、仕事に深い行き詰まりを感じていた時期があります。

    当時、私は金沢赤十字病院産婦人科診療部長の職に就いていました。進行癌の手術やハイリスクの分娩も多く、責任が重く心身をすり減らすことの多い毎日でしたが、それはそれなりにやりがいもあり安定した生活でした。家族に恵まれ、余暇には友人とゴルフやテニスを楽しみ、こうして同じような一日を繰り返し、歳を重ねていくのが人生というものなのだろうと自分自身を納得させていました。

    けれども折につけ、眼前に続く道が単調で輝きのない道程にも見え、“本当にこのままでいいのだろうか?”と自問自答する日々が続いていました。

    当時、癌関係の課題が主流であった産婦人科学会で、ほんの脇役に過ぎなかった生殖医療(当時は不妊治療)が体外受精の成功とともにその勢いを増し、脚光を浴びるようになっていました。人の命を延命する癌治療や自然にできた赤ちゃんの無事な誕生をサポートする産科治療が意義深いものであることは論を待ちません。しかし、新しい生命誕生の手助けをし、挙児を希望されるご夫婦の夢を叶える生殖医療が、厚い壁にぶつかっていた当時の私には曇天の空に射す一筋の光明のように思われたことを覚えています。そして、今まで築き上げてきた仕事と生活にピリオドを打ち、生殖医療を残りの人生のライフワークにしようと決意したのです。周囲の多くの人々に心配と迷惑をかけ、自分の我儘で新しい道を進むわけですから失敗は許されないし、この道で一流になるしかないと思いました。

    当時、世界の生殖医療をリードしていたのはオーストラリアのメルボルンにあるMonarch大学とアメリカのワシントンの南に位置するNorfork大学でした。

    子供の頃から地図を見るのがとても好きでした。この山に囲まれた湖の湖畔から眺める景色はどんなだろうとか、このエキゾチックな名の街を歩いてみたいとか子供心をときめかせながら地図に見入り、遠い異郷の地に思いを馳せたものでした。

    今は知りたいことがあればウェブサイトやSNSを通して有り余るほどの情報を容易く手に入れることのできる時代です。しかし、私の子供の頃は何か詳しく知りたいことがあると、書店で本を買うか、図書館に行って調べるしか方法はありませんでした。それでも、得られる情報はとても限られていて、憧れはさらに膨らみ旅情は募っていきました。

    そんな子供時代からの私の憧れの街には、キリスト復活の聖地エルサレム、東欧の真珠プラハ、北欧の洗練された都市ストックホルム、歴史の中に埋没した哀愁のリスボンなどと共に耳に優しく響くオーストラリアのメルボルンがありました。

     
    そんな少年時代からの憧れが無意識のうちに後押しをしてくれたのか、“メルボルンに行って最先端の生殖医療を学んで来よう”という思いが心の中を埋め尽くしていきました。

    赤十字病院に辞表を提出し新しい道の第一歩を踏み出しました。Monarch大学へ研究研修医として応募する旨レジュームを郵送し、赤十字病院の退職金を当座の家族の生活資金として充当しメルボルンへ単身渡航する準備を始めました。渡航前に、生殖医療の経験値を少しでも上げようと、その頃日本の不妊治療の先頭を走っていた不妊治療施設3施設に依頼し、見学させていただきました。そして、メルボルンからの回答を待っていた矢先、見学先の院長から“山下先生、うちが生殖医療で世界一になる施設だ。うちで勤務したらどうだ。しばらくたったらMonachでもNorforkでも好きなところに研修に行かせてあげるから。”と電話をいただきました。

    その一本の電話が私の人生の大きな分岐点となりました。その言葉に有難さと未来を感じた私はメルボルンへの渡航はやめ、東京で生殖医療を学ぶ道を選び、それから20年、今に至る道を歩いています。

     
    南半球に位置するメルボルンは丁度真冬で、南氷洋から直接吹き込む霙交じりの雨風が街を冷たく濡らしていました。子供の頃からずっと憧れてきた街、叶わなかった夢の街メルボルンでしたが、残念ながらゆっくりと感傷に浸りながら街を散策することはできませんでした。雨粒が次から次へと流れていくトラムの車窓から歴史と現代が調和した美しい街並みを見ながら、20年前にこの街に渡っていたら、旅人ではなく通勤客として同じ風景を眺めていたかもしれないな。と思いました。

    分岐しながら街中をそれぞれの目的地に続いていくトラムの線路が人生と重なって見えました。



    2018年9月17日 院長 山下直樹
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