医療法人社団 煌の会 YSYC山下湘南夢クリニック

日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 不妊治療費助成金指定医療機関 藤沢駅南口徒歩4分 TEL 0466-55-5011

スタッフブログ 山下湘南夢クリニック(YSYC)は、神奈川県藤沢市にある不妊治療を専門とする医療機関です。 そこで働く私たちスタッフが、日々感じた事や不妊治療に関する事を書いています。

  • カテゴリー:YSYCの日常

    2023.02.26

    暖かくなったかと思えば急に寒くなったりと気温が不安定な日々ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。立て込んでいたためブログのアップロードに時間を要してしまい、少し遡った内容になりますがご容赦ください。

    年始に、毎年恒例になりつつあるエンブリオロジスト学会が主催するワークショップの実技指導講師を担当させていただきました。コロナ対策が緩和される中での現地開催となった今年の会場は、重要文化財に指定されている『大阪市中央公会堂』でした。赤レンガを使用したモダンな雰囲気の建物で、壁画など多くの見どころがありました。液体窒素の使用制限があり運営には少し不自由が生じたものの、学会参加者の多くは満足してくださったものと思います。

     


     
    【大阪市中央公会堂外観】

    大阪観光局様のHPより写真をお借りしました。

     
    ワークショップでは、PIEZO-ICSI上級者コースという全国の猛者が集いそうなパートを担当させていただきました。上級者という響きに初めはビビッて(笑)いましたが、難しい症例への技術的な対応を中心とした、まさに上級者に相応しいディスカッションが展開でき、時間はあっという間に過ぎました。患者様に還元できる情報を多く持ち帰ることが出来た点でも良い経験ができたと思います。今年も一人でも多くの治療成功のために全力で頑張ってまいります。

     
    話は変わりますが、当院で飼育しているクラゲたちの連続飼育期間が5か月を過ぎ、現在最長記録を更新し続けています。体はずいぶんと小さくなってきましたが、シーズンから大きく外れた9月から2月という厳しい環境で良く生き続けてくれていると思います。山下院長をはじめ、クラゲの飼育について親身に相談にのってくださる江ノ島水族館の先生方からも、くれぐれも最後まで命を全うさせるようにとのお申し付けがありますので、これからも大事に面倒を見ていきたいと思います。クラゲ水槽は当院3階に設置しておりますので、ご興味がございましたら是非ご覧になってください。



    【クラゲの給餌の様子】

    これはお吸い物ではありません。1匹ずつお椀に移してプランクトンを与えています。

     
     
     
     
    培養室 河野博臣
  • カテゴリー:研究内容

    2022.12.06

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    この度、投稿していた論文が無事にアクセプト(受理)されました!!

    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278663
     
    最初の投稿から9ヶ月。4つ目の学術誌への投稿でようやくゴールに辿り着きました。

    論文を書き上げるのも一苦労ですが、書き上げた後、論文が受理されるまでの道のりの方が実は過酷です。

     
    投稿した論文は、まず規定に合っているかどうかを事務局でチェックされます。この時点で却下されることもありますが、その場合はだいたい自分の不注意が原因です。

    この第一関門をクリアすると、次はエディター(編集者)に回され、内容が学術誌にふさわしいかどうかを判断されます。この時点で不適と判断されて却下されることを、俗に「エディターキック」と呼んでいます。

    運良く(?)この第二関門「エディターキック」をクリアすると、次はreviewer(該当する研究領域のエキスパート)へと回され、より専門的なチェックが行われます。通常、reviewerは2-3人いて、それぞれが投稿原稿について批評を行います。その結果によって、却下となるか、大幅な修正を要求されるか、軽微な修正のみを要求されるか、はたまた受理されるかの判断が下されます。この「査読」と呼ばれる工程では、強烈なダメ出しや、ボロクソな批評を受けることだってあります。責任著者には冷静かつ丁寧な対応、そして何より胆力が求められます。これまでの経験から、最初のトライで受理されることは皆無で(分野や学術誌のレベルにもよると思いますが)、却下とならない限り、reviewerを満足させるまで修正が繰り返されます。

    そして長い戦いの末、“We’re pleased to inform you that…”という報せ(アクセプト)を勝ち取ることができた暁に、ようやく苦労の日々から解放されるという訳です。
     
     
    さて、前置きが長くなってしまいましたが、肝心の内容はと言いますと、胚盤胞を「発育能」・「母体年齢」・「形態(ガードナースコア)」でグループ分けし、遺伝子の働きと染色体異常の有無を各グループ間で比較した、というものです。

    当院では胚盤胞を「培養時間」と「サイズ」の2つの指標を使って評価していますが、この評価法は妊娠率と高い相関があることを今年の受精着床学会で発表しています。詳細は下記リンクより。

    https://www.ysyc-yumeclinic.com/blog/2022/08/02/
     
    この「発育能」を指標にした胚盤胞の分類には何かしらの分子メカニズムが関わっているに違いない、という仮説のもとにスタートさせたのが本研究です。

     
    今回の論文では、胚盤胞の「発育能」という指標に、新たに「母体年齢」と「形態(ガードナースコア)」の2つの指標を加え、それぞれの指標で遺伝子の働きに共通点があるかを解析しました。その結果、各指標で共通して働きが違っている遺伝子が複数存在することを明らかにしました。

    また、我々の結果からは「発育能」と染色体異常のパターンについて関連性は認められませんでした。

     
    これまで実施されてきた研究との相違点として挙げられるのは、

     
    ①ひとつの胚盤胞から内部細胞塊(着床後に胎児になる部分)と栄養外胚葉(着床後に胎盤になる部分)を分離し、それぞれを個別に解析した

    ②ひとつのサンプルの遺伝子の働きと染色体異常を同時に解析した

     
    ことであり、この2点こそが本研究の新規性になります。

     
    本研究で同定した遺伝子は着床に関わっていることが期待される訳ですが、残念ながら現状ではその働きを解析することは不可能です。将来、人工ヒト胚を使った実験モデル等が確立されたら、今回同定した遺伝子の機能解析も可能となり、「非侵襲的で科学的根拠に基づいた胚盤胞評価法の確立」、さらには「胚の妊娠を予測するための遺伝子マーカーの開発」まで可能になるかもしれません(遺伝子マーカーについては倫理的な制約もクリアする必要があります)。



     
    現段階ですぐに医療に応用することはできませんが、このような基礎データを着実に積み重ね、未来へ繋げていくことは重要であり、私たちの使命だと考えています。

     
    論文が年内にアクセプトされたことで、気持ち良く年末年始を過ごせそうです。

    クラウドファンディングへの挑戦も含め、今年は個人的に(研究的に)充実した一年でした。

    https://www.ysyc-yumeclinic.com/blog/2022/06/24/
     
    来年はさらなる飛躍を目指し、研究活動に励んでいきたいと思います!
  • カテゴリー:YSYCの日常

    2022.11.19

    だんだんと寒さが増してきた今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

    先日パシフィコ横浜で開催された日本生殖医学会に参加してきました。

     
    生殖医学会は生殖医療に携わる者にとって国内で最大規模の学会です。教育講演では毎年著名な先生が最先端のデータに基づき授業してくださいます。全国の培養士も集結します。従って他施設の医師、培養室長、培養士、業者さんなど色々な方を捕まえて有用な情報を集めまくるので、通常業務中より休む時間はありません(笑)。今回も患者様にとって有益な技術や情報を山ほど仕入れてきましたので、必要に応じて提供していきます。

     
    今回の学会では、タイムラプスインキュベーターが新鮮分割胚移植において有効であるかどうかを検討したデータを発表してきました。

     
    当院で分割胚移植を経験した患者様は、移植前に培養士から『direct cleavage』(以後DCと表記)という現象について説明を聞いたことがあるかもしれません。通常、細胞は1つの細胞から2つの細胞に分裂します。核(染色体)の複製は一度に一つしかできないので、2つの細胞へ染色体がそれぞれ分配されることで1回の細胞分裂が終了するためです。しかしながら、タイムラプスインキュベーターを使用すると、1つの細胞から3つ以上の細胞に分裂する現象が認められることがあります。これがDCとよばれる現象です。

     

    【DCの様子】

     
    DCを起こした細胞は通常の胚と比較して胚盤胞へ育つ確率は低くなります。胚盤胞へ育つ確率が低くなる=DCを起こした胚は着床する確率が低くなるということです。実際にDCを起こした胚を分割胚移植した成績を見ると、非常に低い成績であることが分かりました。

     
    DC-BL

    【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)の胚盤胞培養成績】

     
    DC-ET

    【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)の分割胚移植成績】

     
    しかしながら、DCを起こした胚をそのまま培養し、胚盤胞で凍結が出来た場合、その移植成績は通常の胚盤胞と同等であることがわかりました。つまり、DCを起こした胚を胚盤胞まで培養することで、着床する力があるかどうかをある程度見極めることが可能であるということです。

     
    DC-BT

    【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)に由来する胚盤胞の移植成績】

    表中の『GS』が胎嚢まで確認できた患者様の数を表しています。

     
    このため、分割胚移植を予定している場合でも、DCが認められた際は胚盤胞培養をお勧めしています。DCは移植直前にならないと判定が難しい場合もあるため、予定していた移植が急にキャンセルとなることもあります。しかしながら、少ない移植回数でご卒業していただくことが重要ですので、移植の可否の判断は非常に大切だと考えています。

     
    DCの判定は通常の定時観察では見極めることが困難ですので、タイムラプスインキュベーターを使用した連続観察が必須になります。タイムラプスインキュベーターは胚盤胞までの長期培養をされる場合に有効ですが、上記のように分割胚移植などの短い培養においても非常に有用であることがお分かりいただけるかと思います。

     
    これから新たに体外受精治療を受けられる患者様も、タイムラプスインキュベーターを是非ご利用ください。詳細については当院培養士を捕まえてご質問いただければと思います。

     
    培養室 河野
  • カテゴリー:研究内容

    2022.11.11

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    パシフィコ横浜で11/3(木)-4(金)にかけて開催された第67回日本生殖医学会学術講演会で発表してきました。

    演題名は「超解像イメージングにより捉えたヒト受精卵における精子尾部先端のひげ根様構造」です。簡単に説明すると、ヒト精子のシッポ(尾部)が受精後に卵子の中で根を張ったような状態になっているのを発見しました、という内容です。

     
    受精において精子が果たす主な役割としては、「父親の遺伝情報」、「卵子活性化因子」、「中心小体」を卵子内に持ち込むことが挙げられます。そのミッションを遂行するため(卵子に到達するため)、精子は尾部を使って卵子まで泳ぐわけですが、受精してしまえば尾部は不要になってしまいます。いや、不要と考えられてきました。

    精子尾部を動かすエネルギーを産生するミトコンドリアが受精後に分解されるメカニズムはよく研究されていますが、精子尾部自身がどのように分解されるかについては現在のところ情報が限られています。今回、私は超解像イメージング技術によって、受精後の精子尾部がどのようになっているのかを詳細に解析しました。

    その結果、卵子内に入った精子尾部の先端は複数に枝分かれし、まるで植物の「ひげ根」のようになっていることが分かりました。それはまるで、精子尾部が卵子内に根付いて、父親の遺伝情報をアンカーしているようにも見えました。このような報告は私の知る限りでは世界初です。

    以上の結果をまとめ、高精細な3D画像データを用いて発表したところ、これがなかなかのインパクトだったようで、座長の先生から「センセーショナルな発表」と評されました。大変嬉しいお言葉で、額面通りに受け取らせて頂きました。

     
     
    今回発見した「精子尾部のひげ根様構造」ですが、生物学的な意義は正直まだ分かりません。ただ、これまでの報告から少なくとも受精そのものには関与しないだろうと考えています。根拠として、まだ顕微授精が実施され始めて間もない頃、精子尾部を半分に切断して卵子内に注入しても受精することが論文で報告されました。このことから精子尾部の先端が無くても受精は起こるということが分かります。

    ちなみに現在では精子に不動化という処置を行って、尾部もそのまま頭部と一緒に注入するのがスタンダードです。しかしながら、マウス(げっ歯類)の場合には尾部を切断して頭部のみを注入して顕微授精します。この違いは先に述べた「中心小体」に関連するのですが、この話は機会があればまた。

     
    ただ、最近は精子尾部にも父親に由来する因子が含まれているのではないか?などと言われ始めており、ひょっとするとそれらの因子は胚の発育に関与していて、その因子を卵子内に留めるために、「精子尾部のひげ根様構造」が役割を果たしていれば面白いな、などと妄想しております。

    「受精後は不要と考えられていた精子尾部に、実は重要なミッションが残されていた!!」なんて、ロマンを感じませんか?

    誰も知らない現象なのですから、発想は自由ですし、それが正しいかどうかを解き明かす事こそ研究の醍醐味です。

    どこまで明らかにできるかは分かりませんが、来年には成果をまとめて論文に発表できればと考えています。

     
    今回の学会は完全に現地開催ということで、久しぶりに色々な方々と対面でお会いすることができました。質疑応答のやりとりなどは、やっぱりオンラインだと物足りないんですよね。。おかげで色々な情報を仕入れることができましたし、モチベーションもかなり上がりました。

    そしてクラウドファンディングでお世話になった方々とも直接ご挨拶することができ、久々に充実した学会期間を過ごすことができました。

     
    また感染が拡大しつつあるようです。手洗い・うがい、マスク着用等、今一度気を引き締めてまいりましょう!
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医療法人社団 煌の会 山下湘南夢クリニック 院長:山下直樹
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