医療法人社団 煌の会 YSYC山下湘南夢クリニック

日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 不妊治療費助成金指定医療機関 藤沢駅南口徒歩4分 TEL 0466-55-5011

スタッフブログ 山下湘南夢クリニック(YSYC)は、神奈川県藤沢市にある不妊治療を専門とする医療機関です。 そこで働く私たちスタッフが、日々感じた事や不妊治療に関する事を書いています。

  • カテゴリー:研究内容

    2022.12.06

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    この度、投稿していた論文が無事にアクセプト(受理)されました!!

    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278663
     
    最初の投稿から9ヶ月。4つ目の学術誌への投稿でようやくゴールに辿り着きました。

    論文を書き上げるのも一苦労ですが、書き上げた後、論文が受理されるまでの道のりの方が実は過酷です。

     
    投稿した論文は、まず規定に合っているかどうかを事務局でチェックされます。この時点で却下されることもありますが、その場合はだいたい自分の不注意が原因です。

    この第一関門をクリアすると、次はエディター(編集者)に回され、内容が学術誌にふさわしいかどうかを判断されます。この時点で不適と判断されて却下されることを、俗に「エディターキック」と呼んでいます。

    運良く(?)この第二関門「エディターキック」をクリアすると、次はreviewer(該当する研究領域のエキスパート)へと回され、より専門的なチェックが行われます。通常、reviewerは2-3人いて、それぞれが投稿原稿について批評を行います。その結果によって、却下となるか、大幅な修正を要求されるか、軽微な修正のみを要求されるか、はたまた受理されるかの判断が下されます。この「査読」と呼ばれる工程では、強烈なダメ出しや、ボロクソな批評を受けることだってあります。責任著者には冷静かつ丁寧な対応、そして何より胆力が求められます。これまでの経験から、最初のトライで受理されることは皆無で(分野や学術誌のレベルにもよると思いますが)、却下とならない限り、reviewerを満足させるまで修正が繰り返されます。

    そして長い戦いの末、“We’re pleased to inform you that…”という報せ(アクセプト)を勝ち取ることができた暁に、ようやく苦労の日々から解放されるという訳です。
     
     
    さて、前置きが長くなってしまいましたが、肝心の内容はと言いますと、胚盤胞を「発育能」・「母体年齢」・「形態(ガードナースコア)」でグループ分けし、遺伝子の働きと染色体異常の有無を各グループ間で比較した、というものです。

    当院では胚盤胞を「培養時間」と「サイズ」の2つの指標を使って評価していますが、この評価法は妊娠率と高い相関があることを今年の受精着床学会で発表しています。詳細は下記リンクより。

    https://www.ysyc-yumeclinic.com/blog/2022/08/02/
     
    この「発育能」を指標にした胚盤胞の分類には何かしらの分子メカニズムが関わっているに違いない、という仮説のもとにスタートさせたのが本研究です。

     
    今回の論文では、胚盤胞の「発育能」という指標に、新たに「母体年齢」と「形態(ガードナースコア)」の2つの指標を加え、それぞれの指標で遺伝子の働きに共通点があるかを解析しました。その結果、各指標で共通して働きが違っている遺伝子が複数存在することを明らかにしました。

    また、我々の結果からは「発育能」と染色体異常のパターンについて関連性は認められませんでした。

     
    これまで実施されてきた研究との相違点として挙げられるのは、

     
    ①ひとつの胚盤胞から内部細胞塊(着床後に胎児になる部分)と栄養外胚葉(着床後に胎盤になる部分)を分離し、それぞれを個別に解析した

    ②ひとつのサンプルの遺伝子の働きと染色体異常を同時に解析した

     
    ことであり、この2点こそが本研究の新規性になります。

     
    本研究で同定した遺伝子は着床に関わっていることが期待される訳ですが、残念ながら現状ではその働きを解析することは不可能です。将来、人工ヒト胚を使った実験モデル等が確立されたら、今回同定した遺伝子の機能解析も可能となり、「非侵襲的で科学的根拠に基づいた胚盤胞評価法の確立」、さらには「胚の妊娠を予測するための遺伝子マーカーの開発」まで可能になるかもしれません(遺伝子マーカーについては倫理的な制約もクリアする必要があります)。



     
    現段階ですぐに医療に応用することはできませんが、このような基礎データを着実に積み重ね、未来へ繋げていくことは重要であり、私たちの使命だと考えています。

     
    論文が年内にアクセプトされたことで、気持ち良く年末年始を過ごせそうです。

    クラウドファンディングへの挑戦も含め、今年は個人的に(研究的に)充実した一年でした。

    https://www.ysyc-yumeclinic.com/blog/2022/06/24/
     
    来年はさらなる飛躍を目指し、研究活動に励んでいきたいと思います!
  • カテゴリー:研究内容

    2022.11.11

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    パシフィコ横浜で11/3(木)-4(金)にかけて開催された第67回日本生殖医学会学術講演会で発表してきました。

    演題名は「超解像イメージングにより捉えたヒト受精卵における精子尾部先端のひげ根様構造」です。簡単に説明すると、ヒト精子のシッポ(尾部)が受精後に卵子の中で根を張ったような状態になっているのを発見しました、という内容です。

     
    受精において精子が果たす主な役割としては、「父親の遺伝情報」、「卵子活性化因子」、「中心小体」を卵子内に持ち込むことが挙げられます。そのミッションを遂行するため(卵子に到達するため)、精子は尾部を使って卵子まで泳ぐわけですが、受精してしまえば尾部は不要になってしまいます。いや、不要と考えられてきました。

    精子尾部を動かすエネルギーを産生するミトコンドリアが受精後に分解されるメカニズムはよく研究されていますが、精子尾部自身がどのように分解されるかについては現在のところ情報が限られています。今回、私は超解像イメージング技術によって、受精後の精子尾部がどのようになっているのかを詳細に解析しました。

    その結果、卵子内に入った精子尾部の先端は複数に枝分かれし、まるで植物の「ひげ根」のようになっていることが分かりました。それはまるで、精子尾部が卵子内に根付いて、父親の遺伝情報をアンカーしているようにも見えました。このような報告は私の知る限りでは世界初です。

    以上の結果をまとめ、高精細な3D画像データを用いて発表したところ、これがなかなかのインパクトだったようで、座長の先生から「センセーショナルな発表」と評されました。大変嬉しいお言葉で、額面通りに受け取らせて頂きました。

     
     
    今回発見した「精子尾部のひげ根様構造」ですが、生物学的な意義は正直まだ分かりません。ただ、これまでの報告から少なくとも受精そのものには関与しないだろうと考えています。根拠として、まだ顕微授精が実施され始めて間もない頃、精子尾部を半分に切断して卵子内に注入しても受精することが論文で報告されました。このことから精子尾部の先端が無くても受精は起こるということが分かります。

    ちなみに現在では精子に不動化という処置を行って、尾部もそのまま頭部と一緒に注入するのがスタンダードです。しかしながら、マウス(げっ歯類)の場合には尾部を切断して頭部のみを注入して顕微授精します。この違いは先に述べた「中心小体」に関連するのですが、この話は機会があればまた。

     
    ただ、最近は精子尾部にも父親に由来する因子が含まれているのではないか?などと言われ始めており、ひょっとするとそれらの因子は胚の発育に関与していて、その因子を卵子内に留めるために、「精子尾部のひげ根様構造」が役割を果たしていれば面白いな、などと妄想しております。

    「受精後は不要と考えられていた精子尾部に、実は重要なミッションが残されていた!!」なんて、ロマンを感じませんか?

    誰も知らない現象なのですから、発想は自由ですし、それが正しいかどうかを解き明かす事こそ研究の醍醐味です。

    どこまで明らかにできるかは分かりませんが、来年には成果をまとめて論文に発表できればと考えています。

     
    今回の学会は完全に現地開催ということで、久しぶりに色々な方々と対面でお会いすることができました。質疑応答のやりとりなどは、やっぱりオンラインだと物足りないんですよね。。おかげで色々な情報を仕入れることができましたし、モチベーションもかなり上がりました。

    そしてクラウドファンディングでお世話になった方々とも直接ご挨拶することができ、久々に充実した学会期間を過ごすことができました。

     
    また感染が拡大しつつあるようです。手洗い・うがい、マスク着用等、今一度気を引き締めてまいりましょう!
  • カテゴリー:研究内容

    2022.08.02

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    新宿の京王プラザホテルで7/28(木)-29(金)にかけて開催された第40回日本受精着床学会学術講演会で発表してきました。

    演題名は「妊娠予測に基づくヒト胚盤胞の栄養外胚葉および内部細胞塊のトランスクリプトーム解析」で、少々難解なワードが並んでおりますが、簡単に説明しますと、妊娠期待率によって胚盤胞を3群に分けて遺伝子の働きを比較した、という内容です。

     
    当院では、胚盤胞を「受精から凍結までにかかった時間」と「胚盤胞の直径」の2つの指標をもとに評価しています。2018年3月から2020年12月までに凍結融解胚盤胞移植を受けた1,890症例について、この評価法により胚盤胞を3群に分け、妊娠率との相関を後方視的に解析したところ、それぞれ59.0%、34.2%、16.5%と有意な差を認めました(p<0.001)。
    この結果から、おそらくこの評価法には何らかの分子メカニズムが関わっているだろうと推測し、3群に分類した胚盤胞から内部細胞塊(着床後に胎児になる細胞群)と栄養外胚葉(着床後に胎盤になる細胞群)をそれぞれ単離して、RNAシーケンシングという手法により遺伝子の働きを比較しました。すると、内部細胞塊では26個、栄養外胚葉では67個の遺伝子に働きの違いがあることを見出しました。

    これらの遺伝子がどのように妊娠に関与しているかについては、残念ながら今のところ解析することは不可能です。しかしながら、研究が進みつつある人工ヒト胚モデルが実現すれば、将来的にはそのモデルを使って、今回発見した遺伝子群の機能解析が可能になるかもしれません。このような基礎データを積み重ね、ゆくゆくは非侵襲的で、且つ科学的根拠に基づいた胚盤胞評価法の確立に繋がればと考えています。

    この研究成果は、現在、論文にまとめて投稿中です。アクセプトされましたら、改めてご報告したいと思います。

     
    せっかくの学会参加でしたが、感染が拡大中ということもあり、滞在わずか4時間程度で帰路につきました。発表して、ランチョンセミナーのお弁当を食べて、午後のセッションに少し参加した程度です。

    対面でも気兼ねなくディスカッションでき、情報交換し合えるような日が1日でも早く戻ってきて欲しいものです。

  • カテゴリー:研究内容

    2022.06.24

    こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。

     
    「卵子の質を改善して不妊治療の成績向上を目指す研究」に関するクラウドファンディングですが、おかげさまで目標を達成して幕を下ろすことができました。皆様の応援のおかげです。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

     
    思えば2ヶ月前、プライベートクリニックの研究に外部資金を調達するための新たな試みとして、不安と淡い期待の中で挑戦をスタートさせました。

    目標金額は100万円。卵丘細胞の遺伝子解析費用に充てるための資金です。

    成功の鍵は情報拡散にあることは明白だったのですが、残念ながら私は人脈が狭く(開始前に100名に連絡しておくよう運営から指示されましたが、私には30名が限界…)、おまけにSNSとも無縁。流石にこのままでは戦えないということで、新たにTwitterを開設し、1日1ツイートを目標に、地道な情報拡散に努めました。クラウドファンディング開始当初は、クリニックホームページと新設された当院公式のSNSが頼みの綱という状況でした。

     
    そして迎えた初日。幸先よくこの日だけで30%の達成率を果たすことができました。このまますぐに目標を達成できるのでは?などという甘い期待はすぐに裏切られることとなり、ここから苦難の日々が続きます。

    開始1週間で達成率は35%、2週間で達成率は37%と、徐々に支援は伸びなくなっていき、残り2週間の時点で達成率は55%という状態。運営からは残り1週間で75%に達していないと成功は難しいと言われていました。つまり、あと1週間で20%(20万円)を獲得しなければならない状況にまで追い詰められていたのです。この事実を突きつけられた時には、流石に心が折れかけました。正直なところ、敗者の弁を考えたりもしました。

    しかしながら、幸いにしてこの時には既にたくさんの仲間を私は得ておりました。当院スタッフをはじめ、お世話になっている業者さん、またTwitter上のお会いしたことのない沢山のフォロワーさん達の熱い応援のおかげで、怒涛のラストスパートを繰り広げ、残り1週間の時点で達成率は77%にまで伸び、募集終了の3日前には100%を達成、そして驚くことに目標達成後にも支援は増え続け、最終的には達成率を141%にまで伸ばすことが出来ました。支援して下さったサポーターは107名にまで上り、さらに多くの方々に色々な形で応援して頂くことができました。

    心折れそうな私を叱咤激励してくれた運営スタッフさんにも本当に感謝しております。諦めていたらこの喜びは得られませんでした。

     
    面識が無いにも関わらず、本当にたくさんの方々から支援を頂きました。本研究への期待と信頼あってのものと受け止めています。大変嬉しく思うとともに、責任をもって本研究に臨まねばと気を引き締めております。

    サポーターの中には、友人、知人、ART従事者、研究者、研究ファン、取引のある業者さんの他に、実際にARTを経験された方々や現在ART治療中の方々までが多数含まれておりました。コメントに残して頂いた皆様の思いはしっかりと受け取らせて頂いています。

     
    情報拡散のためにオンライントークやラジオへの出演、学会での広告掲示など、様々な取り組みも行いました。機会を頂いた関係者の皆様、本当にありがとうございました。おかげさまで本研究やクリニックについて、多くの方々に知って頂く機会になったと思います。

    また、今回の挑戦を通して様々な方と繋がることが出来ましたが、将来、共同研究が出来たら良いなと思える方々にも出会いました。これは私にとって本当に大きなことです。このように副産物の収穫も大きかったように思います。

     
    正直しんどかったですが、得られたものは多く、挑戦して良かったと心から思っています。ただ、二度目はもう勘弁ですが…

    兎にも角にも、プライベートクリニックが外部資金を調達する一つの道を示すことができましたので、これからどんどん後に続いてもらえれば嬉しく思います。ノウハウもある程度蓄積されましたので、後進には出来る限り協力したいと思っています。プライベートクリニックでも戦えるぞ、というところを見せていきましょう!!

     
    今回の挑戦におきましては皆様から十分過ぎるほどの応援を頂きましたので、あとは私が研究でベストを尽くしてお応えするだけです!!

    研究の進捗はクリニックのホームページの他、academistのプロジェクトページとSNSで報告していく予定です。

    プロジェクトページ:https://academist-cf.com/projects/250
    Twitter:https://twitter.com/artnakenkyusha
     
    引き続き、「卵子の質を改善して不妊治療の成績向上を目指す研究」の進捗を見守って頂けますと幸いです。本当にありがとうございました!!

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医療法人社団 煌の会 山下湘南夢クリニック 院長:山下直樹
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